東京高等裁判所 平成2年(行ケ)224号 判決
一 当事者間に争いのない事実
請求の原因一(特許庁における手続の経緯)並びに同二(審決の理由の要点)1ないし3の各事実及び同4のうち、本願意匠、本意匠共、意匠に係る物品を端子盤とする点は当事者間に争いがない。
原告は、審決は本願意匠と本意匠の類否の判断を誤つたものであると主張するので、以下この点について判断する。
二 本願意匠と本意匠の対比
1 本願意匠が別紙目録(一)記載のとおりであり、本意匠が同目録(二)記載のとおりであること、本願意匠及び本意匠の要旨が前記審決の理由の要点2、3に摘記したとおりであることは、前記のとおりいずれも当事者間に争いがなく、この当事者間に争いのない事実によれば、以下の事実が認められる。すなわち、
本願意匠の全体の基本的構成態様は、側面形状を踏台状(段状)として、上段及び下段を設けた端子台において、各段上に複数個の矩形板状の絶縁壁を縦に等間隔に並設して区分した各区分内に、それぞれビス孔及び端子垂下孔を各一つあて貫通し、右端子垂下孔に逆L字状の端子脚片を有する端子をそれぞれビス止めして配設し、端子台下面には、端子脚片を各ビスの後方に相当する部分に垂下したものであり、その具体的態様は、上段には九個、下段には八個の前記各区分を並設し、下段の両端に上段の一区分の二分の一の幅の余地部を設けてその上面中央に取付用小孔を設け、したがつて、上段と下段の絶縁壁は二分の一ピツチずれて設置され、各区分内に円頭状のプラスネジをビスとして平面視凸状部を備えた枠状の受部にそれぞれ配設し、端子は頭部が略方形で先端円弧状の細い脚片を有して頭部付近で直角に屈曲され、端子台下面に突設した各端子脚片の先端寄りには左向きに小矩形状切欠き部分を設け、上下各段状の各ビス下には帽状の座金が介装されている。なお、端子台の下段の高さは上段の高さの約半分であり、各段の幅は下段より上段の方がやや広い段幅とされている。
これに対し、本意匠の基本的構成態様は、側面形状を踏台状(段状)として、上段、中段及び下段を設けた端子台において、各段上に複数個の矩形板状の絶縁壁を縦に等間隔に並設して区分した各区分内に、それぞれビス孔及び端子垂下孔を各一つあて貫通し、右端子垂下孔に逆L字状の端子脚片を有する端子をそれぞれビス止めして配設し、端子台下面には、端子脚片を各ビスの後方に相当する部分に垂下したものであり、その具体的態様は、上、中、下段共各六個の区分を並設し、したがつて、上、中、下段の絶縁壁は一直線を形成して設置され、各区分内に円頭状のプラスネジをビスとして平面視凸状部を備えた枠状の受部にそれぞれ配設し、端子は頭部が略方形で先端円弧状の細い脚片を有して頭部付近で直角に屈曲され、端子台下面に突設した各端子脚片の先端寄りには左向きに小矩形状切欠き部分を設け、上、中、下各段状の各ビス下には帽状の座金が介装されている。なお、端子台の段幅は上段が最も広く、中段、下段と次第に狭くなり、下段は上段の約半分とされている。
2 以上の基本的構成及び具体的態様に基づき、本願意匠と本意匠とを対比するに、両意匠が、基本的構成において、本願意匠が二段であるのに対し、本意匠は三段からなること以外は共通すること、具体的態様においては、各段の態様が、本願意匠では、下段と上段が二分の一ピツチずれていて、しかも下段には上段の各絶縁壁間の二分の一幅の余地部を設け、余地部の上面中央に取付用小孔を設けた態様としているのに対し、本意匠では、上、中、下三段の各段上に並設した各絶縁壁及びビスが縦横にずれることなく、碁盤目のように整然と配列された態様としている点及び子細に見れば本願意匠においては、端子台の下段の高さを上段の高さの約半分とし、段幅は、下段に比して上段がやや広くしているのに対し、本意匠の段幅は上段、中段、下段と次第に狭くし、下段は上段の約半分としている点において相違しているが、ビスを円頭状のプラスネジとして平面視凸状部を備えた枠状の受部に配設し、端子は頭部が略方形で細い脚片を有して直角に屈曲され、各脚片の先端寄りに小矩形状の切欠き部分を設け、各ビス下に座金を設けた点において共通することは当事者間に争いがなく、前項の事実によれば、右以外に、前記座金が帽状である点においても共通することが認められる。
三 本願意匠と本意匠との類否について
1 以上のように、両者は端子の配列構成において、本願意匠は、横に上、下二段構成(側面視二段構成)で、縦に上、下を二分の一ずつピツチをずらして配列した構成(したがつて、下段両側に余地部が形成される。)であるのに対し、本意匠は、横に上、中、下三段構成(側面視三段構成)で、縦に上、中、下と一連に配列された構成(したがつて、どの段の両側にも余地部は形成されない。)であり、横、縦のいずれの構成も段数、縦列態様において共通した点はない。これに対し、当事者間に争いのない本意匠の構成、成立に争いのない甲第四号証の一ないし三によれば、特許庁が類似と判断した引用意匠と本意匠は、端子の配列構成において横の構成は段数が二段か三段かの相違があるものの、縦の構成では上、中、下と一連に配列された点に共通性がみられ、また、当事者間に争いのない本願意匠の構成、前掲甲第四号証の一、成立に争いのない甲第六号証によれば、特許庁が昭和五六年審判第三五〇六号事件により類似と判断した引用意匠と本願意匠は、端子の配列構成において縦の構成が一連であるか二分の一ずつピツチをずらしているかにおいて相違があるものの、横の構成が二段である点に共通性がみられる。
2 このように、本件と右の特許庁が判断を示した二つの事案とは、原告が主張するように必ずしも同列に論じ得るものではない。しかし、翻つて本願意匠と本意匠の端子そのものの形状を対比すると、両者は全く同一である。まず、並設された絶縁壁で仕切られた部分におけるプラス状に形成された円頭状のビス頭及び平面視凸状部を備えた枠状の受部、先端寄りに左向きに小矩形状の切欠き部分を設けた脚片、上、下各段の各ビスの下に介装された帽状の座金の形状にいずれも差異はなく、個々の端子を見る限りその形状は全く同一である。かかる端子の個別的同一性に加えて、前掲甲第四号証の三によれば、特許庁は引用意匠と本意匠を対比するに際して、「端子を二段とするか三段とするかにおいて相違がみられるが、これは主として通常行われる範囲での端子数の増加減少によるものであり、かつその結果においての両者の態様が極めて別異のものとしてあらわされていない。」と判断した事実が認められるところであり、この事実によれば、端子の配列段数の変更自体は常套手段であることが認められる。また、前掲甲第六号証によれば、特許庁は本願意匠と引用意匠を対比するに際して、本願意匠の二分の一ピツチずらして絶縁板を並設した点に対し、「この種の物品の分野において本出願前より広く知られているところであり、本願の意匠ではこれらの点につき従来より知られていた態様のとおりとしたにすぎない」と判断したことが認められるところであり、この事実によれば、端子盤の意匠において、上下の絶縁板を二分の一ずつピツチをずらして並設することは、本願意匠の出願当時において既に周知の構成であつたと推認されるところである。
そうであれば、端子盤に係る意匠の要部が配列構成であることを踏まえた上で、本願意匠と本意匠を全体として対比すると、段数及び絶縁板のピツチのずれによる配列の相違にもかかわらず、本願意匠は、端子盤における常套手段を採用し周知の形態を利用して、本意匠において用いられているいずれも形状が全く同一の座金により介装された端子をそのまま使つて縦、横の配列を変更したにすぎないとの感を拭い去ることができず、そこに意匠としての創作性を見いだし得ないし、特に形状が全て同一の端子、座金が配列されているところからみて、看者に対し両者が同一人の創作に係る意匠であるとの印象を強く与えるものと認めることができる。
3 次に、両者の差異点について検討すると、本願意匠における下段の左右の余地部は上、下段のピツチをずらしたことにより当然生ずる部分であり、そこを取付部として利用したにすぎず、また、正面視による脚片の数の差も右ピツチのずれから当然生ずるものであるし、平面視による形状の差も同一形状の端子の配列の差によりもたらされたものにすぎないものというべきであるから、本願意匠と本意匠の対比に関する限り、前記2に説示した構成に由来する類似性を否定する差異点とまでは認めることはできない。
4 被告は、両意匠にみられる段数、上下の絶縁壁のずれ、余地部、平面形状の差は全体観察の中で類否の判断をすべきである旨の主張をするが、前記判断も個々の端子が同一形状であることに着目した上での全体観察による対比の結果導かれたものである。また、座金、端子脚片が端子盤にとつて付随的なものであるとしても、両意匠の正面視において全く同一形状のものとして視認されるものであるから、類似判断の一要素となるものというべきである。
四 結論
以上によれば、審決が本願意匠は本意匠とは類似せず、意匠法一〇条一項による類似意匠の意匠登録を受けることができないと判断したことは誤りであり、その誤りは結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、取消しを免れない。よつて、原告の請求はその結論において正当であるからこれを認容する。
〔編注1〕本件における請求原因は左のとおりである。
第二 請求の原因
一 特許庁における手続の経緯
意匠登録出願 昭和五三年 八月二日
(意願昭五三―三二六四六号)
拒絶査定 昭和五六年 一月三一日
審判請求 昭和五六年 二月二五日
第一次審決(不成立) 昭和五八年 九月 一日
取消訴訟提起 昭和五八年一一月三〇日
取消判決 昭和五九年 九月一七日
第二次審決(不成立) 昭和六〇年 七月一八日
取消訴訟提起 昭和六〇年 九月 四日
取消判決 昭和六一年 二月一二日
第三次審決(不成立) 平成 二年 七月二六日
二 審決の理由の要点
1 本願意匠は、登録意匠第四八二〇七〇号意匠(以下「本意匠」という。)を本意匠として、前項記載の日に類似意匠の意匠登録出願をしたもので、意匠に係る物品を「端子盤」とし、その構成は別紙意匠目録(一)記載のとおりである。
本願意匠の要旨は、全体の基本的構成態様について、側面形状を踏台状として上段及び下段を設けた端子台において、各段上に複数個の矩形板状の絶縁壁を縦に等間隔に並設して区分し、その各区分間に各一つあてビス孔及び端子垂下孔を貫通し、そこに逆L字状脚片を有する端子をそれぞれビス止めして配設し、端子台下面には、該脚片を各ビスの後方に相当する部分に垂下したものであり、各部の具体的態様については、上段においては円頭形のビス九個(奇数区分)を、下段においては八個をそれぞれ並設し、したがつて、下段は両端に上段の各絶縁壁間の二分の一の幅の余地部を設け、右余地部に取付用小孔を設けたものである。さらに、各区分に配されたビスは、円頭状のいわゆるプラスネジとし、端子は頭部が略方形で細い脚片を有して直角に屈曲され、端子台下面に突設した各脚片の先端寄りには小矩形状切欠き部分を設け、上下各段状の各ビス下に矩形座金を設けたものである。なお、子細に見れば、端子台の下段の高さを上段の高さの約半分とし、上段は下段に対してやや広い段幅としている。
2 本願意匠の出願に対する拒絶の理由は、本願意匠は本意匠と類似するものとは認められないから、意匠法一〇条一項による類似意匠の意匠登録を受けることはできないというにあるところ、出願人(原告)はこれに対し、本願意匠と本意匠は、<1>本願意匠が二段であるのに対し、本意匠は三段であり、側面形状を異にし、<2>本願意匠は、上下ビスの位置が二分の一ピツチずれているが、本意匠は同一列となつており、また<3>本願意匠はビスの数が九本と八本であるのに対して、本意匠は三段共六本である点において相違するが、両意匠共、<1>矩形外形を持ち、下部に脚片を突設し、上部にビス頭を若干露出している点、<2>下部に突設した脚片には、それぞれ同一割合同一大きさのコ字状切欠きがあり、<3>ビス及び座金の形状模様が同一で、<4>脚片は、側面図で、共に偏心して突設されている点において、それぞれ共通するところ、かかる端子盤の意匠において、ビス数及び段数の各相違並びにビスの位置が二分の一ピツチずれている点は、いずれも非類似の要件とはならないから、前記<1>ないし<3>の相違点はいずれも非類似判断の根拠とはならない。したがつて、両意匠は前記の各共通点を有する類似意匠であると主張した。
3 本意匠は、昭和五一年六月二四日に意匠登録出願され、同五三年三月三一日に登録されたもので、意匠に係る物品を端子盤とし、その構成は別紙意匠目録(二)記載のとおりである。
本意匠の要旨は、全体の基本的構成態様を、側面形状を踏台状(段状)として上、中、下段を設けた端子台において、各段上に複数個の矩形板状の絶縁壁を縦に等間隔に並設して区分し、右各区分間に各一つあてビス孔及び端子垂下孔を貫通し、そこに逆L字状脚片を有する各端子をビス止めして配設し、端子台下面には、右端子脚片を各ビスの後方に相当する部分に垂下する構成態様としたものである。各部の具体的態様は、上、中、下段共それぞれ縦に七列並設した各絶縁壁の各区分間に円形頭のビスを各六個並設したものであり、右ビスはいずれも、円頭状のいわゆるプラスネジとし、端子は頭部が略方形で細い脚片を有して直角に屈曲され、端子台下面に突設した各脚片の先端寄りには小矩形状切欠き部分を設け、各段上のビス下に矩形座金を設けたものであり、各端子台の段幅は、上段、中段、下段と次第に狭くし、下段は上段の幅の約半分としたものである。
4 両意匠は、意匠に係る物品をいずれも「端子盤」とする点において一致し、形態において次の相違点及び共通点がある。
全体の基本的構成態様において、両意匠は、段数において相違するものであり、この相違点は各部の具体的態様の相違と相まつて両意匠の形態上の相違を基礎づけるものである。
各部の具体的態様については、各段の態様が、本願意匠では、下段が上段と二分の一ピツチずれていて、しかも下段には上段の各絶縁壁間の二分の一幅の余地部を設け、余地部の上面中央に取付用小孔を設けた態様としているのに対し、本意匠では、上、中、下三段の各段上に並設した各絶縁壁及びビスが縦横にずれることなく、碁盤目のように整然と配列された態様としている。なお、子細に見れば、本願意匠においては、端子台の下段の高さを上段の高さの約半分とし、段幅は、下段に比して上段をやや広くしているのに対し、本意匠の段幅は上段、中段、下段と次第に狭くし、下段は上段の約半分としている。
両意匠の基本的構成態様は、前記の段数の点を除くその余の点において共通し、各部の具体的態様は、ビスを円頭状のプラスネジとし、端子は頭部が略方形で細い脚片を有して直角に屈曲され、各脚片の先端寄りに小矩形状の切欠き部分を設け、各ビス下に矩形座金を設けた点において共通する。
5 両意匠の特徴を比較検討すると、本願意匠の特徴は、平面視した全体形状を横長矩形状とし、側面視二段の段状(踏台状)としたものにおいて、絶縁壁が下段と上段とで二分の一ピツチずれたものとし、下段の両端には各絶縁壁間の二分の一幅の余地部を設け、小孔を配して取付部とした態様である。
これに対し、本意匠の特徴は、平面視した全体形状を、略正方形状とし、各段の両端に設けた絶縁壁が側面視三段からなる踏台状(段状)の側面形状を形成し、各段の両端には余地部を設けず、また、ビス頭及び絶縁壁が縦横にずれることなく整然と配列されている態様である。
そして、本願意匠の上下段を踏台状とした側面形状及び横長矩形状とした端子台の平面形状は、いずれもこの種物品の分野において出願前から公知の態様ではあるが、これと、前記の上段には余地部を設けず、下段は右上段とずらしてビス頭及び絶縁壁を設けた点とが相まつて本意匠には認められない本願意匠独自の特徴を奏するものである。
一方共通点のうち、各段上に複数個の矩形状の絶縁壁を縦に等間隔に並設して区分し、その各区分間に各一つあてビス孔及び端子垂下孔を貫通し、逆L字状脚片を有する端子をそれぞれビス止めして配設し、端子台下面には端子脚片を各ビスの後方に相当する部位に垂下した基本的構成態様は、いずれも、独自の特徴を奏する程のものではない。また、具体的態様のうち、ビスは周知のものであり、脚片の形状及びその配置の共通性は部分的であつて、これらはいずれも全体に比して微弱若しくは局部的である。
以上、両意匠の形態について全体として考察すると、全体の基本的構成態様及び各部の具体的態様において、前記のように相違するものであるから、本願意匠はその特徴点において本意匠とは顕著な相違を表出しているものであつて、具体的態様の細部において共通する部分があるとしても、両意匠は全体として、類似するものとはいえない。
なお、出願人(原告)は、端子盤の意匠において、ビス数及び段数の各相違並びにビスの位置が二分の一ピツチずれている点は、いずれも非類似の要件とはならないと主張するが、右主張は一般的には正当性を有するものではあるとしても、本件における以上のような具体的検討結果を左右するものとはいえないから、採用できない。
6 よつて、本願意匠は、本意匠とは類似しないものと認められるから、意匠法一〇条一項の類似意匠の意匠登録を受けることができない。
三 審決の取消事由
審決の理由の要点のうち、1ないし3は認める。同4のうち、段数の相違が各部の具体的態様の相違と相まつて両意匠の形態上の相違を基礎づけるとする点は争うが、その余は認める。同5のうち、両意匠の共通点及び相違点についての評価は争う。同6は争う。
審決は、基本的構成態様における段数の相違並びに具体的態様における本願意匠の下段と上段との二分の一のピツチのずれ及び下段の両端には上段の各絶縁壁間の二分の一幅の余地部を設け、余地部の上面中央に取付用小孔を設けた態様における相違点を重視し、本願意匠はその特徴点において本意匠とは顕著な相違を表出しているとして、両意匠は非類似であるとするが、後述するように、右各相違点は本件物品に係る意匠の類否の判断においては、格別重視されるべき点ではないのにこれらの相違点を過大に評価する一方、具体的態様における両意匠のビス座金の形状及び端子脚片が奏する類似した効果を不当に軽視した結果、前記の誤つた結論を導いたものであるから、その認定判断は違法であり、取消しを免れない。
1 本件のような端子盤の意匠においては、段数を二段とするか三段とするかは、主として通常行われる範囲での端子類の増加減少によるものであり、右段数の相違が結果において両者の態様を極めて別異なものとしていない以上、非類似とすべき要素となるものではない。このことは、特許庁においても、本願意匠と同様に二段の構成を採る端子盤に係る別紙目録(三)の意匠(意願昭五二―三八一八〇号意匠、甲第四号証の一、以下「引用意匠」という。)と本意匠の類否の判断において、右のような段数の相違は、「通常行われる範囲での端子類の増加減少によるものであり、かつその結果両者の態様が極めて別異のものとして表されていない」として、右段数の相違にも拘らず、両意匠を類似すると判断していることからも明らかであるし、このような判断は端子盤の判断においては何ら珍しいことではない(甲第五号証の一、二参照)。
しかるに、審決は、本願意匠と本意匠における段数の相違を重要な相違点としているものであるから、右判断は失当である。
2 次に審決は、下段が上段と二分の一ピツチずれていて、下段には上段の各絶縁壁間の二分の一幅の余地部をその両端に設け、余地部の上面中央に取付用小孔を設けた態様における相違点を重視しているが、右判断も失当である。すなわち、端子盤の意匠において上段と下段を二分の一ピツチずらす構成は、この種の物品の分野において本願意匠の出願前に広く知られたところであるから、何ら新規性はなく、従来より知られた態様を採用したというにすぎない。このことは、本願意匠と引用意匠の類否が問題となつた昭和五六年審判第三五〇六号事件においても、特許庁自身が前同様の判断をしていることからも明らかである。また、本願意匠における余地部は、本来、考案ないし構造でありこれを意匠上の主たる相違点とすることは誤りであるし、仮にこれを意匠の観点からみるとしても、余地部は、端子盤において取付けにビスを使用する場合の常套手段であるところ、本願においては平面図で見ると、平面図両側の二分の一以下に、横幅に対し幅二〇分の一、長さ七分の一の取付部を設けたもので、その中央部に横幅の三三分の一の直径の円形を配したもので、平面図から明らかなように右部分には意匠的特徴も創作性も全くなく、通常、この種の端子盤の類否判断では無視される、評価の著しく低い形状模様である。したがつて、前記の下段と上段のピツチのずれを重要な非類似の要素とした審決の判断は失当である。
3 審決は、本意匠の平面視した全体形状が略正方形である点を特徴の一つとして取り上げているが、端子盤の意匠の類否の判断において、端子数の多少によつて生ずるプロポーシヨンの差異は、類否を左右する主要な要素となるものではなく(甲第八号証の一、二)、本意匠における平面視略正方形のプロポーシヨンは、端子数を増加することにより、本願意匠と同様に平面矩形状となることは明白であるから、右の点を特徴として取り上げた審決の判断は失当である。
4 審決は、ビス類の下部に介装した座金の特異性ある形状模様を看過している。すなわち、本願意匠及び本意匠は共に、通常の平板状座金に帽状座金の外周側壁に四つの弧状溝を設けた座金を使用していることから、両意匠を正面及び背面から見れば、各区画板の間にほぼ同形のビス頭の下部にあたかも眼鏡のような模様を形成しているものである。そして、かかる形状を有する座金が多数並列していることから、これを全体観察すると無視できない独特の形状模様を示すものであつて、しかも、本願意匠の出願前には見られない新規性を有する意匠であることから、かかる点は、意匠の類否判断において無視できないものである。しかるに、審決は、かかる創作性と意匠的特質のある右類似点を看過したものであり、違法である。
5 審決は、端子脚片の形状及び配置の共通性を微弱ないしは局部的であるとしているが、本願意匠における端子脚片の、下端を円弧状に処理し、左側側壁をコ状に切り込んだ形状模様は、仮に一本が知られていたとしても、これを多数並列垂下した意匠は従来なく、かかる意匠を全体としてみると、その意匠的影響力は大きく、この点において本願意匠と本意匠とは同一といつてよいほど酷似しているから、右判断も失当である。
6 以上のとおり、審決は本願意匠と本意匠の類否の判断において、類否の判断要素の考量評価を誤り、両意匠の類似性を否定したものであるから、違法であり、取消しを免れない。
第三 請求の原因に対する認否及び反論
一 請求の原因に対する認容
請求の原因一、二は認めるが、同三は争う。
二 反論
審決は両意匠の特徴は、本願意匠については、「平面視した全体形状を、横長矩形状とし、側面視二段の段状(踏台状)としたものにおいて、絶縁壁が下段と上段とでは二分の一ずれたものとし、下段の両端には上段の各絶縁壁の二分の一幅の余地部を設け、小孔を配して取付部とした態様」にあり、他方、本意匠については、「平面視した全体形状を、略正方形状とし、各段の両端に設けた絶縁壁が側面視三段からなる踏台状(段状)の側面形状を形成し、各段の両端には余地部を設けず、また、ビス頭及び絶縁壁が縦横ずれることなく整然と配列されている態様」にあると認定したものである。以上のように、本意匠の特徴は、基本的構成態様における三段構成の、<1>平面視略正方形とし、<2>各段の両端の絶縁壁がそのまま側面視三段の踏台状の側面形状を形成し、<3>ビス頭及び絶縁壁が本願意匠のように縦横ずれることなく整然と配列され、したがつて、段両端には全く余地部がない三点にあるのに対し、本願意匠の特徴は、基本的構成態様における二段構成の、<1>平面視横長矩形状とし、<2>上段と下段の絶縁壁(及び)ビスが二分の一ずれたものとし、<3>下段両端に上段絶縁壁の二分の一幅の余地部を設け、<4>右余地部に小孔を配して取付部とした態様にあるから、結局、両意匠は、構成要素に共通する点はあつても、意匠の要旨としての基本的構成態様の差異と相まつた具体的態様の差異とが奏する全体的効果は、明確で看過し得ない相互の異なる特徴を形成し、両者は明らかに別異のものとの認識を与えるものであるから、審決の認定判断は正当であり、何ら違法の点はない。
1 原告は、二段からなる引用意匠の登録出願を三段からなる本意匠と類似しているとして拒絶査定したことをもつて、段数の相違は意匠の相違を基礎づける要素とはならないと主張する。しかしながら、類否の判断は全体観察によるものであるから、段数の差異も他の構成態様との関係、すなわち比較すべき当該意匠相互の各構成要素の異同並びに基本的若しくは具体的態様の如何によつてその類否判断に及ぼす効果が異なるのは当然であるから、事例を異にする意匠間の類否の判断から端子盤においては「段数の差異は意匠の相違を基礎づけない」との基準を抽出して、これを異なる事例にも適用する原告の主張は失当である。
2 原告は、本願意匠の登録出願を引用意匠に類似しているとして拒絶した昭和五六年審判第三五〇六号事件審決が「ねじ及び仕切板の配置を上段よりも二分の一程度内側にずらして並設した点」について「この種物品の分野において本出願前より広く知られているところであり、本願の意匠ではこれらの点につき従来より知られた態様のとおりにしたにすぎない」とした点を援用して、本願意匠と本意匠との類否の判断においても、二分の一ピツチのずれは意匠の相違を基礎づける要素とはならないと主張する。しかしながら、右構成態様が、本願意匠の具体的態様として上段と対置されて「下段の両端」に「余地部を設け、該部に取付用小孔を設けた」取付部を構成することとなり、この取付部は本意匠の構成要素には全く認められないものである上、右の態様が普通であつたとしても、限られた二段に異なる態様として対置的に結合(構成)されるものであるから、同一の態様が繰り返し結合された本意匠とは意匠の評価上無視し得ない差異を表出する結果となる。原告援用に係る前記事件における本願意匠と引用意匠とは、両者の構成要素が共通している点が重要なポイントであるから、この点に関する原告の主張は失当である。
3 原告は、審決が、両意匠の平面視した形状を特徴として指摘した点を端子数の多少によつて生ずる単なるプロポーシヨンの差異にすぎないとして非難するが、審決は、本願意匠の特質を「平面視二段状(踏台状)としたものにおいて」としたのに対し、「本意匠の特質は、平面視した全体形状を、略正方形状とし、各段の両端に設けた絶縁壁が側面視三段からなる踏台状(段状)の側面形状を形成し………」と意匠を総合し立体としての構成態様の特質(特徴)を記述したものであるから、原告の主張は当を得ない。
4 原告は、本願意匠及び本意匠に共通しているビス類の下部に介装した座金の奏する独特の形状模様を看過していると主張するが、右部分は正面図と背面図において一部分が視認できる程度の、全体に比して極めて微細な部分にすぎない。このように座金の表す模様的要素が両意匠に共通するものであるとしても、全体に比して特定の位置からその部分を注視しなければ認識することができない程度に小さく、特徴を構成する要素として採り上げるまでもないことから、審決においては具体的態様の認定において捨象したものである。
5 原告は、審決は端子脚片の著しい類似性を看過ないし軽視していると主張するが、以下に述べるとおり失当である。すなわち、まず、両意匠を底面から見れば、本願意匠が二列に横長にずれて配列されているのに対し、本意匠においては三列で略方形に近く、整然と並列されており、配列態様において明らかに異なる上、端子脚片は端子盤の形状自体としては付随的なものであり、両意匠の端子脚片の態様は本意匠の出願前から公知の態様であるから、端子脚片先端の形状が共通していたとしても、両意匠の特徴として採り上げることはできないものであるから、原告の主張は失当である。
〔編注2〕本件における別紙意匠目録は左のとおりである。
別紙意匠目録(一)
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同目録(二)
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同目録(三)
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